鬼の生き様

永の別れ


 身の丈六尺(約180cm)、体重四十五貫(約168kg)もある大男、島田魁を筆頭に続々と新入隊士が集まっていき、浪士組の所帯は次第に大きくなっていた。
八木邸と前川邸を借りていたが、南部邸も借りなければ隊士の収容が収まりきれない。

大坂で偶然会った井上松五郎とは歳三達は伏見まで共に行ったのだが、屯所を見たいと壬生村へと松五郎が訪れてきたのだ。

平野屋からの金はまだ残っている。

隊士の歓迎会を含め、松五郎を交え壬生狂言を鑑賞し、その晩は酒宴を開いた。

 夜も更けてくると、源三郎は深刻そうな顔をして歳三のもとへとやってきた。
阿比留鋭三郎がどうやら体調が優れないらしい。

「どんな様子だ?」

「今夜が山かと…」

中山道で上洛中から阿比留の体調は芳しくなかったが、いよいよまずいらしい。

阿比留のもとへと向かうと、顔は蒼白く生気がない。

「俺ァ…いよいよもう駄目かもしれません」

「弱気な事を言うんじゃねえ」

「自分の身体の事は一番自分が分かっています…。本当は皆さんと戦い、武士として名誉ある死を遂げたかった」

「ここまで一緒にやってきたんだ。
お前さんは立派な会津藩御預り壬生浪士組の隊士じゃねえか」

そう言うと阿比留はにっこりと笑った。
翌日の四月六日、爽やかな風が優しく吹いて、無精鬚はかすかにゆらいだ。
阿比留鋭三郎の魂が抜けた身体は、頬のあたりに微笑をうかべているように見えた。

志半ば、享年二十二歳であった。
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