鬼の生き様

そんな芹沢や勇とは対照的に歳三の表情はどんどん暗くなっていく。

「…あんなネギの葉っぱ色やめようぜ」

歳三はそう言うと、新見は何を言うかね、と言い

「赤穂浪士(あこうろうし)はまさに武士の鏡。
そして浅葱色は切腹裃(せっぷくかみしも)の色でもある。
赤穂浪士のように義侠心強く、いつでも腹を切る覚悟をもって忠義を尽くす。
ましてや壬生の藍で染め抜くとなれば、我等壬生浪士組にこれほど相応しい羽織はないと思うがね」

とニヤリと笑った。
愉しんでいるのか本気なのか、もはや分からなかったが、百両もの大金を使って羽織を作るのだ。

「局長は白地に黒のダンダラ。
副長は黒地に白のダンダラ…それ以下は浅葱色に白のダンダラでいいんじゃねえか?」

歳三は嫌気をさしながらそう言った。
まだ黒白のダンダラはら着ても良いが、浅葱色は死んでも嫌だ。

「それでは満場一致という事でそれでいこう」

芹沢はそう言うと勇は素直に喜んでいた。
子供の頃から父に忠臣蔵を読んでもらい、憧れ続けた武士の理想姿であり、一度でいいから、あのダンダラ模様の羽織に袖を通してみたかったのだ。

それでは隊旗も作ろう、と今度は芹沢が提案した。

「ならば赤字の生地に金色で誠一文字がいい!」

歳三はそう言った。
いつも冷静な歳三が声を荒げているのだ。

「誠?」

「誠の志をもった俺達にしっくりくるでしょう?」

歳三は語気を強めて言った。

「羽織に不服そうだから、隊旗ぐらいは土方くんの望みを叶えてやろう」

と芹沢はすぐに赤字に金色で誠の文字を染め抜いて、下はダンダラ模様の入った隊旗を作る事に決めた。

誠の文字は風になびくと『試衛館』の『試』にも見える。

前川邸へと戻り歳三は勇に言った。

「浅葱色なんてお前が一番嫌がる野暮な色じゃねえか」

そう言うと勇が目を丸くした。
その頃、国表から江戸に参勤した田舎侍や下級武士が、浅葱木綿を裏地とした着物を着ていたことから、浅葱裏といえば、野暮の代名詞となっていた。

「いいんだ。それで」

浅葱色は、切腹裃の色。
武士の正装である。

「俺たちは常に生命を賭しているという覚悟と、幕府と帝に対する誠の想い。
そして、壬生での御神体を預かる家の幕の色でもある」

壬生では、郷士たちが輪番制で、御神体を奉持する週間があり、その任に当たる家は玄関前に白と浅葱色の幕を掲示していた。

「近藤さんがそこまで言うなら…」

しばらくして隊服と隊旗が出来上がった。
見事な浅葱色に染め抜かれた隊服である。


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