鬼の生き様


 実直な勇には、板挟みとなってしまっている会津がどうにも歯がゆい。

「納得がいきませぬ。
殿は帝から直々に京都守護職の役を仰せつかったのでしょう?」

「うむ、そうなのだが。
しかし…やはりわからん…」

勇は容保の漏らした感想に耳を疑って思わず腰を浮かした。

「お待ちください!
殿があえて火中の栗を拾うご覚悟であれば、我ら身命を賭して付き従います」

少しうわずった勇の声で、容保は我に返ったように面を上げた。
無言のままジッと見返された勇は、言いすぎたのかもしれない、と手に汗を握るような居心地の悪さにモゾモゾと身をよじった。

「申し訳ありません、言葉がすぎました」

「…近藤、右側の男、土方の流派はなんじゃ?」

勇は出し抜けの質問にしばらくキョトンとしたのち、容保が目の前の試合を指して、流派が「わからん」と言ったのだとようやく理解した。


「あれは、わが天然理心流の構えです」

垂れ幕で仕切られた前庭の中央で構える歳三を見て勇は答えた。

その歳三が勇を横目で睨んだ。
せっかく容保と天覧試合という形で対面をしているのだ。

(しっかりしろよ、話が噛かみ合ってねえだろうが)

歳三は口には出さなかったが、目でそう勇に訴えた。
勇の隣に座る新見は、小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

「楽しみだなァ、多摩で盛んに親しまれている剣術を拝見出来るとは」

新見は嫌味ったらしくそう言った。
田舎剣法だと言いたいのだろうが、勇は何も言い返さずに歳三を見つめた。

「悪いがこの試合勝たせていただくぞ。
北辰一刀流にも勝る天然理心流という田舎剣法の真髄を、上様には勿論、新見“局長”にもお見せしたいんでね」

歳三は低声でつぶやいた。
向かい合っているのは、北辰一刀流の遣い手、藤堂平助である。
歳三は荒っぽく竹刀を構えなおした。

「天然理心流か。
なるほど見たことのない型だ」

容保は顎をさすりながら、愉快そうにつぶやいた。

「まだ名は知られていませんが、実戦向きの剣術でござります」

勇はようやくそう言うと、実戦向きと聞き容保は早く見たそうに嬉々の表情を浮かべた。

 歳三は人差し指をクイと手前に曲げて対戦相手である平助に向けると、また不敵に笑った。

「お互いに手加減なしだぜ、魁先生」

言われなくてもそのつもりである。

「よろしくお願いします」

平助は幼さの残る可愛らしい顔をしているが、”魁先生”とあだ名される突進力で、一気に歳三との間を詰める。


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