鬼の生き様

 無事に役目を果たしてほっと一息ついた勇達だったが、それにしても京坂は江戸に比べると暑い。
六月の初夏の陽気が、芹沢を懲らしめていた。

「暑いなぁ、こういう日は舟遊びをするのが風情あってよい」

「舟遊びとは名案です。さすがは芹沢先生」

平山五郎は俄然乗り気だ。
勇と源三郎は大坂の地理を把握するから、皆で楽しんで来るように、と伝えたが、総司は頬を膨らませた。

「近藤先生も行きましょうよ!
大坂の観光なんていつでも出来るじゃないですか」

「遊びに来たんじゃないんだ」

源三郎はそう窘めた。が、実をいうと源三郎は舟に弱い。
その事を勇も知っていて、源三郎が舟に乗らなくて済むように勇と源三郎は舟遊びを遠慮したのだ。

「まぁまぁ、我等だけで行こうぞ」

芹沢はもはや暑さに我慢できずに、早くに涼みに行きたかった。
以前より大坂に下った時に贔屓にしている八軒屋京屋にて芹沢は「舟遊びに刀は邪魔になる」と言い、脇差のみを腰に差して、一同はいざ濡れてもよいように胴着に着替えた。


< 210 / 287 >

この作品をシェア

pagetop