鬼の生き様

 愛次郎とあぐりの死から五日が経った八月七日。
予定通り相撲の興行が祇園北林にて執り行われた。
芹沢達は「相撲興行など武士がやる事ではない」と白々しく笑っている。
ここの所、芹沢の評判はガタ落ちであった。

愛次郎の一件で「あぐりを妾にしようとしていた芹沢が、断られた腹いせで愛次郎を斬った」と隊内では噂になっていた。

他にも愛次郎は実は長州の間者であり、壬生浪士組に寝返りつつある愛次郎を長州の浪人が斬殺したという噂も流れていたが、芹沢は何も気にする事なくいつも通り過ごしていた。

「ワシァ、一度死んだ身よ。
今になってどんな噂を立てられようと痛くもかゆくもない」

芹沢は煙管をふかそうとし、煙草盆を近付けたが、肝心の煙管がない。

──芹沢先生も煙管ばかり吸っとるとお体に触りますよ。

愛次郎の死を知ってから、芹沢は煙管を辞めた。

「ははは、辞めたのを忘れておったわ」

芹沢はそう言いながら虚しそうに、煙草盆を元の位置へと戻した。
そんなことをしていると、平間重助が蒼ざめた顔で芹沢のもとへやって来た。

「先生…」

「どうした?」

「実は隊費の算出が合わんのです」

勘定方の任に就く平間はそう言うと帳簿と金庫を照らし合わせた。
根が真面目な男である平間に限って、金銭に誤差が出るなど、そんな事はないと思い芹沢も確認してみると、たしかに金が減っている。

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