鬼の生き様

ヒラクチの彦斎


 佐々木愛次郎の訃報は壬生浪士組に大きな衝撃を与えた。
芹沢は可愛がっていた愛次郎の死を悔やむと、すぐに佐伯又三郎を呼び出した。

「お前の仕業か?」

今朝の佐伯は様子がいつもと違っていた。
それに気付かない芹沢ではない。

「何を仰いますか……。わてにそんなんやる度胸はあらへんでっしゃろ」

「貴様、人を斬った事はあるか?」

いえ、と首を振る佐伯の姿を見て、ほうと顎をさすりながら、芹沢は佐伯の刀をサッと抜いた。
刃こぼれがいくつかある打刀を見て、小さな目で佐伯を睨み尽くした。

骨に何度も当たったのだろう、さぞかし愛次郎は苦しみながら死んだに違いない。


「人を斬った事がないというには、狂気の目をしている。この刀には怨念を感じるわ」


芹沢のドスの効いた声を聞き、佐伯は震え上がった。


「もうお前を責めても死んだ者は還らん。
愛次郎のぶんも尽忠報国の志をもって、激務に励んでくれ…」

芹沢は哀しそうな目をしながらそう言った。
佐伯は低頭平身し、芹沢の部屋から出て行った。

(やはり黒幕は佐伯…か)

 この時期、壬生浪士組は大坂での力士乱闘事件の禊として祇園北林にて興行相撲の手伝いをする話となっていた。
歳三は相撲興行の件で話があり、偶然にも八木邸に来ていて話を聞いてしまった。


(愛次郎、あぐり…お前達の死は無駄にはしねえぞ)


歳三は静かに唇を噛み締めた。

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