鬼の生き様

「斬るならば、畳が汚れるからもっぱら外を選ぶぜ俺ァ」

歳三はそう言うと懐に手を入れて、黄色い襷を取り出した。

「この黄色い襷は会津の兵という証だ。
先般、御所警固への出動の折、会津中将様から承ったものだ。
これは芹沢さんが、アンタの分だと貰ってきたものを預かってきたんだ」

新見は信じられない、という顔をして目を見開いた。

「新見さん、会津藩から『アンタ達をどうにかしろ』と言われているんだが…」

左之助はそう言うと、新見は「やはり俺を斬るのか!」と激昂して鞘を払った。
歳三は飛び退いて、幸いにも脇差であったため一撃を受けずに済んだが、左之助も咄嗟に鞘を払い新見の腹部を突き刺した。

「う…ぐっ……」

新見は悶え苦しんでいる。
まだ傷は浅いが、ジンジンとした痛みは熱を帯びながら腹部から全身へと広がり、そのあとすぐにまた一箇所に激しい痛みとして舞い戻って来た。

「……早とちりしやがって馬鹿野郎!
俺ァ、あんたを副長にする事でナシをつけるつもりだったのによ」

歳三は新見を降格させる事によって、河上彦斎の件も、全て水に流すつもりであった。

「こうなったら仕方ねえ、楽になりなよ新見さん」

歳三は刀を抜いて、新見を斬ろうとしたがそれを新見は制した。

「待て!後生だ…。芹沢さんに一目会わせちゃくれねえか」

祇園から芹沢のいる壬生村、八木邸には小半刻(30分)ほどかかる。
歳三は首を横に振った。

もしもここで切腹でもさせるとなれば、会わせてやりたいつもりは山々であった。

「これ以上、生き恥を晒すんじゃねえよ」

「芹沢さんが、俺が殺されたとなりゃ黙っちゃいねえさ」

新見は儚げに笑った。
血はいくら浅いとは言え、ゆっくりゆっくりと袴を赤黒く染め、畳を湿らせていった。

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