鬼の生き様

新選組



 芹沢鴨、平山五郎の死は隊内に大きな動揺をもたらした。
筆頭局長の死ともなると事件はただちに会津藩に届けられた。
雨の夜の惨劇は、長州の刺客によって為されたものと判断された。

 小用で厠へ行っていて災難を逃れた桔梗屋で働く芸妓の吉栄は、震えて何も証言することも出来ずに、平間と同衾(どうきん)していた輪違屋の糸里は、自分たちの部屋に賊は侵入はしなかったと答えた。


平間重助はそのまま姿を消してしまい、事件の真相を知る者は誰一人としていない。
下手人である歳三、山南、総司、左之助を除いては……。

一報は角屋にも届けられ、ただちに全員が帰隊した。

「芹沢さん……」

野口健司は絶句して立ち尽くしていた。
突然の事すぎて、何も言えない。
ただただ信じられずに感情は無となった。

「さっきまであんなに笑っていたのに…」

うん、と野口に相槌を打つ平助の目も赤くなっていた。

左之助は傍らで、黙って両人の肩を抱いた。
かける言葉を探してみたが、気の利く言葉なんて見つからない。

夜明け近く、試衛館の者たちが、一部屋に集まった。

誰もが無言で、それぞれの想いを確かめている。

「……芹沢さんの葬儀は明後日、盛大に執り行おう」

勇が沈黙を破った。
長州の仕業だと信じたかった。
唇を噛み締めると糸切り歯で切れて、血が唇を滲ませる。

「今後の壬生浪士組を、芹沢さんの想いを俺たちが担って行かねばならない。
局長は近藤勇、アンタただ一人だ」

歳三はそう言って勇を見つめた。

「…だな」

もう死んだ者は還らない。
やり切れない想いを吹っ切れたような顔をして、新八が顔を上げた。
しかし勇は、「そんな事はどうでもいい」と今はただ喪に服していたかった。

< 282 / 287 >

この作品をシェア

pagetop