鬼の生き様
佐江は恐怖で心の底から蒼白になり昏倒してしまいそうな勢いであった。
それとは対照的に歳三は東一郎から視線を縫い付けたまま動こうとはしなかった。
「貴様という奴は!」
東一郎は歳三の髪を引っ張り、殴った。
何度も何度も殴った。
たとえその場に男衆が居たとしても、周囲の人も手が出せないほどの凄まじい殴りようだ。
それでも一方、歳三の視線というものは東一郎にしっかりと縫い付けられていた。
「俺のいたいけな娘を穢しやがって!」
次第に歳三の顔は膨れていったが、何も言わずに殴られて抵抗もせずに、ただひたすらジッと東一郎の目を見据えていた。
切羽詰まった絶望感が爆発的な殺意に変わっていた。
「夜這いなんぞしよって!」
何度も何度も殴り歳三の顔はみるみる膨らんでいき、血でまみれ、青くなり修羅場の如く傍若無人に殴り続ける東一郎に、佐江は制しようとしたが虚しいまでも一蹴され、歳三は殴られ続けた。
しかし何も言わずに東一郎の狂気じみた目をジィッと見つめて離そうとはしない。
「くそっ、何か言う事はないのか?」
「孕(はら)ませてしまったならまだしも、同意の上で行う行為をわざわざ報告する必要はないでしょう」
火に油とはまさにこの事。
わなわなと目に憎悪が赤く充血していく。