鬼の生き様


 歳三は久しぶりに実家へと帰った。
「まーたお前は、奉公先を抜けてきやがったな!」
帰るや否や飛ぶ怒号。
喜六は大げさに体を揺さぶって地団駄を踏んだ。

「へへっ、番頭の娘はそりゃ“良い味”がしたぜ」


歳三はそう言うと、庭先へと出て行った。

「なんだか、憑き物がとれたみてえだな」

 為次郎は見守るかのように、喜六に声をかけた。
胸のつかえがとれ、気持ちがさっぱりとした歳三の表情は眩しいような深い喜びを顔に漲らせていた。


「俺は将来、武士になって、天下に名をあげてやる!」


 歳三は篠竹という種類の矢竹を植えた。
矢竹は節と節の間隔が長く、細身であったので、弓矢を作る材料に適していた。
いずれ本物の武士と同じように、この矢竹で矢を作ろうというのである。

徳川の泰平の世が続き、弓矢の必要性はすでに薄れていたが、歳三にとってはそれは武士の象徴ともいえるものであった。


「俺も目が見えていたなら、武人になって畳の上で死ぬような生き方はしなかったろうにな」


為次郎は心の目で歳三の姿を見守っていた。
歳三は商人、薬の行商人で終わる男ではない、そう信じていた。

(俺の夢、お前に託すぞトシ)

この時、まだ十七歳。

 島崎勝太こと、後の盟友・近藤勇との出会いであった。

武士への誓いを矢竹に込めて、島崎勝太をいずれ倒すという野心に燃えていた。



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