鬼の生き様


 そのくらやみ祭りの生誕より時は流れ、天保十四年(1843年)。
歳三は九歳となっていた。

「歳三、そろそろ丑の日だ。
今年も多摩川で沢山の牛革草(ぎゅうかくそう)を採るぞ」


 喜六はそう息巻いていた。
丑の日になると、土方家のすぐ近くにある多摩川の支流、浅川に生えている牛革草を刈り取る。

土方家に伝わる家伝薬、石田散薬を作るためだ。

骨折や打ち身、捻挫、筋肉痛、また切り傷等に効用があるとされていて、河童明神から製造方法を教わったという伝説がある。

 宝永年間より製造、販売されていた家伝薬で、江戸御府内以外の得意先だけで四百軒以上あり、関東近県の取次所と呼ばれる雑貨商や薬種商に卸して販売しているのだ。


 丑の日のみに刈り取った牛革草を天日で乾燥させ、目方を十分の一になるまでにし、乾燥した牛革草を黒焼きにして鉄鍋に入れる。
その後、日本酒を散布して、再び乾燥させ、最後に、薬研にかけて粉末にすれば完成だ。


 石田散薬の服用法は特異なものであり、水ではなく熱燗の日本酒で飲むようにされている。

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