鬼の生き様

「何しょぼくれてんだよ」


歳三は惣次郎の背後から声をかけた。
惣次郎は厭そうな目で、歳三を睨みつけた。

「門人達に子供扱いでもされたんだろ」

惣次郎は最初はただただ、歳三を睨むばかりであったが、小さくコクリと頷いくと、歳三は鼻で笑った。

「やっぱりガキじゃねえか。
そんな事で尻尾巻いて逃げちまうなんてよ」

「貴方に一体、私の何がわかるんですか?
歳三さんが武士になりたいと思っている以上に、私は早く大人になりたいんだ!」

惣次郎は立ち上がり、歳三に牙を向けた。

「俺は武士になるんだ。
いつかこの日本に名を轟かせてやる。
俺がそう思っていなきゃ、今のまんま何も変わりゃしない」

歳三はそう言うと、河原に寝そべった。

「でもな、ガキは泣いて喚いて『大人になんかなりたくねえ』って言っても、大人になるんだよ。
小便漏らそうが、鼻水たらそうが、いつか必ず大人になるんだ。
背伸びなんざしねえで、ありのままのお前でいればいいじゃねえか」

 本当の言葉というのは大地の上で融けた一片の雪のように静かに心に沁み込んでいくものであり、それからしばらく二人はお互い何も言わずに、歳三は空を、惣次郎は水面を見ながら黙りこくっていた。
そよ風が気持ちよく感じる。

「桜が咲きそうだ」

歳三は深く息を吸った。

「桜…そろそろですね」

 惣次郎は困ったように頭をかいて笑った。
歳三という男に、惣次郎は惚れた。
末っ子の歳三と、姉はいるが長男の惣次郎。
まるで兄を慕うような、不思議な気持ちにはった。

「散る桜、残る桜も、散る桜…だ。
どうせいつかは散っちまうんだから、なりてえ自分に意地でもなってやるんだ」

「はい」

惣次郎はそう言うと、歳三の隣に寝そべり二人はそっと目を閉じた。
 二人は花冷えの寒さなんて忘れて、心地良い春の“風”を感じていた。

< 50 / 287 >

この作品をシェア

pagetop