鬼の生き様



 黒船が来航してから、【幕末】という時代は始まった。


勝太は黒船を見て以来、以前に増して稽古に精を出していた。
異国の脅威というものを肌で感じて、血が騒がないわけがなかったのである。

それとは対極的に、歳三は試衛館に顔を出す事が少なくなった。
黒船を見に行った翌日には、歳三は久しぶりに石田村の実家へ帰ってしまったのだ。


「歳三、江戸での暮らしは慣れたかい?」


 為次郎は歳三が帰ってきた事に喜んだ。
試衛館は仮入門だが、食客で住み着いていた事は彦五郎から聞いていたのだ。

「勝っちゃんも近藤先生もよくしてくれている」

そうかそうかと為次郎は歳三としばらく談笑をしていると、喜六がやって来た。
 亀店の丁稚奉公から帰って来て、しばらくして試衛館の門人になった事を、喜六はよくは思っていなく、歳三の顔を見るたび、叱言を言うのだが、喜六の叱言がなんとなく懐かしく感じた。


「まぁ、終わっちまった事を蒸し返しても意味ねえか。
剣術もいいが、お前ももう十九だ。
分際をわきまえない髪やめて、いい加減真面目に働け」


 百姓の倅らしく素小鬢(すこびん)という形の髷(まげ)にすべきところだが、洒落者の歳三は総髪を束ねて自分で工夫した髷を結っていたのである。
その風変わりな変わり髷は、姉のノブにも月代(さかやき)を剃れと何度も言われてきたが、決して変わり髷を変えることはなかった。


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