鬼の生き様

 吹き抜ける風の中で吹き上げられ舞っている紙屑のようにふわふわと行方のつかめぬままの土方家の末っ子である歳三を、喜六は真剣に心配をしているのである。

「その仕事の事で、今日は頼み事があって来たんだ」

その言葉を聞くと二人は暫く呆気にとられたように凝固した。
まさかあれほど武士になると騒いできた歳三が、自ら仕事の話をしてくるとは思わなかったのだ。


「俺ァ、薬の行商を始めようと思うんだ。
石田散薬、分けてくれねえか」


「歳三!お前もようやく真面目に働く気になってくれたのか!
勿論だ、いくらでも持っていけ」


涙ぐみながら、商売道具を取りに行く喜六を見て、歳三はやれやれと呆れ顔で見ていた。


「黒船が来てから、日本は新しい風が吹きはじめている。
お前もおそらく見に行っていたんだろう。
行商をしながら武者修行でも始めるのか?」


為次郎の言葉に歳三はドキリとしたが、素直に「はい」と頷いた。
喜六はまだナカと共に商売道具をまとめているようであった。


「大きなうねりをあげて、混乱の世が始まるだろう。
いよいよだ。お前の剣と知恵が必要となる時代がまもなくやってくるだろう」


 為次郎は全てを分かりきっているように、歳三にそう言った。
眠れぬ獅子、歳三の奇妙な武者修行が始まったのである。

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