鬼の生き様

桃園の誓い


━━安政六年(1859年)、一月。

 歳三は久しぶりに実家へと帰っていた。
正月という事もあり石田村の子供たちは凧揚げや羽子板などをし遊んでいた。


「いやぁ、すっかりお前も薬屋らしい顔になったなぁ。
兄ちゃんは、これでもう安泰だぁ」

 焼いた角餅、小松菜、大根、里芋などが入ったすまし汁仕立ての雑煮を食べながら、喜六は言った。
喜六は少し痩せていた。
歳三が真面目に行商をしていると信じ込んでおり、喜六は褒めちぎった。

 江戸時代の正月の過ごし方は、寝正月が基本である。
歳三は縁側で、うたた寝をしていると彦五郎とトクが訪れた。


「彦義兄、おトク姉!」

「なんだいトシ、帰ってきてたのか。
今日は子供達を連れてきたぞ」

 彦五郎とトクの子で、つまり歳三の甥っ子にあたるナオ、源之助、力之助を連れてきていた。

ノブはもう一人腹篭っている。

「力之助はもう四つぐらいか?」

「あぁ、そうだな」

「じゃあそろそろ大丈夫だろう。
さて、源之助、力之助。風呂でも入るか」

歳三の言葉に源之助はギョッとして目を見開き固まった。

「歳三叔父ちゃんと、風呂は嫌だ!」

その表情を見ると嫌悪感で顔が蒼ざめていた。
歳三は熱湯が好きで、よく一緒に熱湯に入らされていた。

「本当にもう絶対に入りたくないね!」

と喜六の長男の作助も話に入ってきた。
 作助に関しては、熱さの限界で風呂から飛び出して逃げ出した事がある。
歳三もまた、逃げた作助を庭中追いかけて捕まえたと思ったら、湯船に入れて蓋を締められるという仕打ちまで食らったことがあるのだ。

「男が熱湯ぐらいで根をあげるなんて、大成しないぞ」

歳三はそう言うと、源之助は人差し指であかんべえをしてみせた。
彦五郎はその様子を見て、大笑いをした。

< 70 / 287 >

この作品をシェア

pagetop