鬼の生き様
多摩川に着くと男達は一斉に刀を抜いた。
ぎらりと輝く白刃は、夕闇に包まれ不気味に光っている。
歳三と山口も鯉口を切って構え、二人は離れた。
「先生の仇を討つ!」
塾頭の男がそう叫ぶと、男達は一斉に斬り込んで来た。
やはり山南の言う通り、敵は二手に分かれた。
「ええぇい!!」
草葉の陰に隠れていた山南は後ろから気合いを入れて斬り込んだ。
突然の奇襲に何も出来ずに一人、二人と倒れていく男達。
峰打ちであろうと、骨の一本や二本は折れているだろう。
その場の状況に理解が出来ずに、男達は混乱を始めた。
「今だ!」
歳三の声と共に二人は斬り込んだ。
恐怖の伝染というのはすぐに男達に広がった。
こうなると勝敗は決まっていた、狼狽をした男達は歳三、山口、山南によって打ち倒されていく。
多摩川の河原に人がごろごろと転がっていく。
いくら峰打ちで相手を痛めつけていたとしても、惨憺たる有り様は、現場を一目見るや言葉を失うほどの地獄絵図。
「二度と俺たちの前に姿を現わすな。
次は殺すぞ」
山口は腕と肋骨の骨が折れた塾頭にそう言うと、塾頭は悶絶するような苦しみの中頷いた。
しかしそうしている間に、傷の浅かった一人の男が山口に斬りかかったのである。
「山口ィ!!!」
歳三は駆け抜け、一刀両断。
居合いで斬り斃したのである。
胴は二つに割れ、血煙をあげ、男は河原に無惨にも転がった。
即死である。
初めて人を斬った。
返り血を浴び、得体の知れない嫌悪感が歳三を襲った。
血の匂いが身体に染みつき、気持ちが悪い。
この晩、歳三の家に泊まり三人は清めの酒を呑んだ。