鬼の生き様
山口は申し訳なさそうな二人を見つめていた。
土方歳三と山南敬助。
他人の為に命をかける。
まだ十六歳の山口は二人に敬慕の念を抱いた。
歳三は刀を見つめた。
今から人を斬るかもしれない、死ぬ覚悟をもって戦場へと征くのだ。
「生きて帰ってくるぞ」
これは喧嘩ではない、歴史に刻まれることなどない名も無き戦なのである。
「このように私怨で人を殺(あや)めるのは、私は反対です。
君達の手を、こんな諍いのせいで穢(けが)れてはほしくない」
「今回は懲らしめるという形にしよう。
ならば、徹底した軍議をするぞ」
山南は不必要な殺人はするものではない、と言った。
歳三もそれには賛同をした。
「まず山口が連中を多摩川へとおびき寄せる。
その間に俺たちは、左右から敵を囲むというのはどうだろうか」
「いや土方くん。
それはあまりにも山口くんにとって負担が大きすぎる。
土方くんと山口くんが二人でおびき寄せるのはどうだろう。
二人相手だと敵も攻め入るのに分散される。
私が出て行く事によって混乱に陥り、その隙をついて攻め込み総崩れにさせる」
なるほど、そうしようと歳三は頷いた。
日も暮れていき、外が騒がしくなってきた。
篠原道場の門人達が続々と集まって来たのであろう。
「あの薬屋の家に違えねえ」
「よし行くか」
男達はおよそ二十人、今こそ師匠の遺恨を晴らすと燃え滾る怒りを土方家に向けていた。
「こんな遅くに近所迷惑じゃねえか」
歳三は後ろから声をかけた。
歳三と山口の姿を見て門弟達は身構えた。
「薬屋、やはりグルだったのか」
「ついて来いや」
歳三と山口は多摩川の方面へと向かって歩いていく。
背後から殺気がみなぎっているのが、肌で感じとれた。
多摩川までがいつもより長く感じる。
途中、斬られるかもと危惧したが、門弟達は意外にもあっさりと終始ついて来た。