鬼の生き様



「トシ…」

「勝っちゃん、久しぶりだな」

「今は勝太ではなく、島崎勇と名乗っている」

 勝太改め、勇(いさみ)は久しぶりの歳三との再会に涙を潤ませていた。
昔と変わらないお人好しそうな表情は、歳三の心が洗濯されたように穏やかとなった。

「今まで一体どこで何をしていたんだ。
修羅場をくぐってきたような目に変わったな」

 思い返される薬屋行商の日々、篠原道場と斬り合った忘れも出来ない過去。
黙っていようとも思ったが、目の前にいる勇の目の前に嘘はつけなかった。


「…人を斬った」


侮蔑されるだろう。
罵詈雑言は覚悟の上であった。

「そうか」

勇は何も咎めることもせずに頷いた。

「これはな、誰にも話していなかった事だが、俺が十五の時。
まだ義父上の養子になる前の話だ。
上石原村の実家にいた時、父上が出かけている晩に盗賊がやって来たんだ。
俺と兄上は、盗賊を追っ払おうとしたんだが、調子に乗っていたんだろう……。
俺は腕試しの為に頭領と見られる男を斬った」


 勇の告白に歳三は驚いた表情を浮かべた。
隠された過去、打ち明けられなかった今日この日まで勇はどんな思いで生きてきたのだろうか。


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