鬼の生き様


「追っ払えば済んだものの、俺は相手の隙を狙って斬ったんだ。
その時の顔は忘れられねえ、盗賊に入った時は気が立っているから、去り際に斬りこんだ。
苦しみ悶える盗賊を見たとき、初めて気付いた。
こいつらはケダモノではなく、俺らと同じ人間だったと。
そう思うと手前が怖くなった。
トドメを刺して楽にしてやる事も出来ずに、俺はただ生き絶えていく姿を何も出来ずに見ることしか出来なかった…」

 歳三は何も言えなかった。
お互い人を斬り殺し、その仏の顔が今でも脳裏にこびりついている。


「だから、俺はその時に誓ったんだ。
万に一つ、また剣を振るう時が来たのならば、自分ではなく誰かの為に剣を振るおうと。
トシ、お前は十分に苦しんだ。
もう、そんな哀しい目をする必要はねえ。
ここがお前の居場所だ、もう何処にも行かないでくれ」


 勇の言葉に歳三は唇を噛み締めた。
この人にはやはり勝てない。
もしまた刀を握る時が来たならば、島崎勇の為に剣を振るおう。

「惣次郎!」

勇は惣次郎と歳三の肩を組んだ。

「俺達三人はもう今後一切、離れ離れになる事はない。
生まれた日は違えど、死ぬ時は同年同月同日、ここに誓おうではないか」

「桃園の誓いですね」


 勇は照れ臭そうにはにかんだ。
三人は義兄弟の契りを交わし、数日が経ち安政六年三月二十九日。
歳三は改めて天然理心流、試衛館道場の門人となったのである。


 歳三、この時25歳であった。

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