鬼の生き様


「なんなら平助もあがっていきなよ!」

 惣次郎は平助の手を引いた。
「沖田くん」山南はそう窘めようとしたが、歳三はいいんじゃないかと言った。

「せっかくの祝い事だ。
人は多いにこしたことはない」

まだ来賓者は身内や門人達と多摩の人達しかいない。
 江戸の名だたる道場には、招待状は出していたが、差し詰め江戸の貧乏道場の師範代の祝言など桜田門の一件があってからか、はたまたもとより興味がないのだろう。
ましてや平助が参列するとなれば、玄武館はもちろん伊東道場にも多少は試衛館の名前が売れると考えた。

「では、お言葉に甘えさせて頂きます」

 平助は刀を預けて道場へと入って行った。
和やかな雰囲気で、大先生の周助や若先生である勇、そして試衛館の門人達は分け隔てなくその場を楽しんでいた。

「物凄く和やかな雰囲気ですね」

「これも近藤先生の人柄だよ」

惣次郎はそう言うと、平助は羨ましそうな光悦とした表情を浮かべた。

 永倉は勇に酌をしていた。
まだ出会って一年ほどだというのに、勇の祝言を心から祝福していた。

「あの永倉さんだって、流派は神道無念流で試衛館の門人ではないけど、今じゃ客分として試衛館に寝泊まりをしているんだ。
山南さんも仮入門として寝泊まりしている」

「へぇ、食客ってやつなんだね」

「しょっかく?」

「うん、食客っていうのは、中国の戦国時代に広まった風習で、君主たちが才能のある人達を客として養う代わりに、主人が困った時は助けるんだ」

 平助は頭が良い。
歳三や山南ほどではないが、勉学に励んでおり、剣術も北辰一刀流の目録を受けている。

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