鬼の生き様
「俺も食客になりたいなァ」
冗談っぽく言ったつもりだったが、目は口ほどにものを言う、惣次郎は平助の心の内を見破っていた。
来れば良いのに、そう言おうと思ったが、口を籠らせた。
「さぁさぁ、近藤先生にご挨拶でも行っておいで」
惣次郎はいつも以上に明るい声で平助の背中を叩いて銚子を渡した。
平助は勇に酌をしに行くと、勇は思い出したかのように言った。
「君は確か、伊東道場の藤堂平助くんだよね」
勇がそう言うと、平助は嬉しそうに喜んだ。
「覚えててくれたんですか?」
「惣次郎との試合はよく覚えているよ。
若いのに竹刀を握ると、前へ前へ出て行く藤堂くんの姿勢はまさに戦国武将の池田勝正のようだった。
まさか来てくれるとは、わざわざありがとうございます」
自分の事をしっかりと覚えていてくれた勇に、ますます食客になりたいという欲が強くなっていった。
平助は弘化元年(1844年)の生まれで、惣次郎より二つ年下だ。
この時、平助はまだ十六歳である。
「近藤先生、ご新造さん。
この度は誠におめでとうございます」
「こんな所ですが、ゆっくりして行ってください」
(なんて良い人なんだ)
平助は体のどこか薄暗いところに淀んでいた古い血が波立ち騒ぐような、微かなざわめきが聞こえた。
どんちゃん騒ぎの祝言は、松井家の方々にはあまり良からぬ印象を与えたようであったが、ツネは勇の人柄を慕い集まった面々を見ると嬉しそうに微笑むばかりで、祝言は無事に終わった。