残り100日の私と大好きな君
それから1時間ほどして、咲楽ちゃんの御家族の方が病室に入ってきた。

咲楽ちゃんは、さっきからだいぶまた心拍数が落ちて、とうとう最期の時が近付いて来ている。

あの、厳しかったお母さんは泣きながら先生に詰め寄り「どうにかして助けてよ!!!!」と何度も何度も叫び、お父さんは唖然とする妹さんをただ慰めていた。

あまりにも、場違いな僕は一度離れた方がいいかな…

そう思ったけど、咲楽ちゃんの小さな手は、僕の手を離さなかった。

先生や看護師さんたちがお母さんを宥める。

お母さんは延命治療を強く望むけど、お父さんはそれに反対していた。

「もう、楽にしてあげよう。こんなに穏やかな表情をしているんだ、今はこの二人だけにしてあげないか?」

語尾が少し震えていた。

本当は、お父さんもずっと咲楽ちゃんのそばに居たいはずだ。

それでも、僕らの様子を見てそう言ってくれた。

僕は、お父さんに向かって会釈をした。

「……奏汰くん、咲楽ちゃんのこと、抱きしめてあげて。」

先生が、咲楽ちゃんの体から点滴やモニターを外しながら言う。

「はい…」

手が、震える。

これから、この腕の中で、人が………………大切な、大切な人が亡くなるんだ。

僕は、すっかり軽くなった咲楽ちゃんの体を持ち上げて抱きしめた。

咲楽ちゃんは、うっとりとした表情を浮かべ、それからゆっくり、ゆっくり目を閉じていった。

「ありがとう、大好き……」

僕は、咲楽ちゃんを強く抱きしめた。

だんだんと、体越しの体温と心拍が消えていった。
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