それもまた一つの選択
2月25日。
高校の卒業式。

1年生は来なくていいのにさ。
遥は図書室で待ってる、と言いだした。
式が終わってから高橋は先に帰り、俺は図書室に向かった。
司書の先生にも最後、挨拶をして帰ろう。

「お世話になりました」

司書の先生に挨拶をすると

「二人仲良く星座の本を見ているのを見られなくなるのは寂しいわね」

とおっしゃってくださった。

「まあ、大学の図書館、高校生でも使えるからね。
会いたくなったらそこでデートかしら?」

遥は先生の言葉に顔を真っ赤にしていた。

「大学は…来ない方が良いですよ。変なのも多いし」

俺は高校1年から時々、大学の図書館でも本を読んでいたけれど、付属の女子高生をナンパしている奴もいたからなあ。

「私はこれからも帰る時間までここに来ます。
トキさんがいなくなってもここで星座の本、見てるから」

隣でそんな事を言う遥を見てギョッとした。

ポロポロと涙をこぼしていた。
先生もギョッとして

「大丈夫?」

優しく遥の肩を撫ででいた。

「…トキさんと私は2歳離れているし、いつかこういう日が来るのは間違いないんですけど。
いざ、そういう時が来たらこんなに苦しくて辛いとは思いもしませんでした」

遥が俺の袖を掴んだ。
その、重力が。
ぐっと腕にかかって…それはきっと遥の、俺を想う重さ。

「最後にもう一度、一緒に本を見たいな」

それは二人が同じ高校生で。
最後に出来る事。

「もちろん、いいよ」

俺はそっと遥の手を握り締めた。

いつもの席へ向かおうとした時、先生が嬉しそうにこちらを見て微笑んでいた。



遥と俺が大好きな星座の本を手に取り、席に着く。

「一度でいいからトキさんと本当の星空を見たいなあ」

なんて言うから

「じゃあ、泊まりにおいでよ」

と返すと遥は憮然として

「門限5時」

「一回破ってやったら?」

「…トキさん、本当に潰されちゃうよ?」

「嫌だな、今は」

と言って二人でクスクス笑った。



高校最後の日も、俺は遥と二人、駅に向かいいつものように駅で別れて。
電車に乗ってそこで初めて。
今まで味わったことのない感情が起こった。

すっと頬を流れる一筋の涙。

遥と出会ったから。
自分の中で芽生えた感情。
最初はいつの間にか俺の横に座って人の寝顔を勝手に見ててさ。
なんて奴だ!!って思ったけど。
彼女も星が好きだった。
遥と毎日ほんのわずかな時間を図書館で過ごせたのはつまらない高校生活を楽しくさせてくれた。

もう二度とない、二人が高校生の時代が終わった。
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