それもまた一つの選択

遥の高校生活

「どう、新しいクラスは?」

いつものように図書室に向かい、私はいつもの席に座る。

「…まあ、それなりには慣れました」

友達も適当には話するけれど。
それ以上は無理だった。

「今日は暖かい日差しね」

司書の先生は眩しそうに外を見つめる。

トキさんと出会ったのもこんな暖かい春の日。

「あ、そうだ」

先生は一旦書庫に行き、再び戻ってくると私に封筒を渡してくれた。

「藤野君にも渡しておいてほしいな」

そっと封筒を開けてみると。

「あ…」

それはトキさんの卒業式の日。
帰りにここに立ち寄った時に撮った写真。
先生が撮ってくれた。

「二人揃ってここに来てくれていたのが何だか遠い過去の出来事のように思うわ」

そう、この隣の席にはトキさんがいたのに。
いない。
当たり前の事が当たり前でなくなった。

「…どうしてトキさんと同い年じゃないんでしょうか」

つい、愚痴ってしまった。

「同じ年なら一緒の時に卒業出来たし。
2歳も離れていたらトキさんはどんどん、遠くなる」

本当に遠くなる。

大学に行けば、同い年とか年上の人を好きになる可能性がある。
私よりも価値観の合う人がいたら、きっとトキさんは私の事なんて忘れる。

「2歳離れているから、ちょうど良かったのかもしれないわよ」

そんな言葉に思わず眉を寄せた。
何が良いのかさっぱりわからない。

「藤野君の年収とか、知ってる?」

先生、そんな事唐突に言わないでください。
そんな話、するわけないし。
…ってあれ。
私、トキさんのそういう事、あまり知らない。

「最初のゲームで一生遊べるだけのお金、稼いだのよ、彼」

一生?

「それに甘んじず、ずっとシステムの開発をしたり色々しているわ。
経済界ではとても若い経営者として持て囃されている。
けどね、それを良しとしない古い考え方の人もいて、中々敵も多いわね」

聞いてない?と言われて首を縦に振った。

ゲームが当たった、とは聞いているけどそれ以上の事は聞いていない。

「でも、近い将来、彼が今している事が当たり前の世界になると思う。
その時、彼はもっと先を見据えているんだろうけど。
そんな未来に、藤野君の隣にいるのは誰でしょうね。
私は今井さんであって欲しい。
もっと、自分を磨いてさすがは藤野君の奥さん、って言われるような人になって欲しいの」

奥さんって言われた…急に顔が熱くなった気がする。

「もし、神様がいるとしたら、この2年という歳の差を今井さんにプレゼントしたのだと思う。
いつか来るであろう、その時の為に」
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