それもまた一つの選択
と、思ったけれど。
夏休み突入。
学校で友達を作る機会をまた失ってしまった。

本当に私ってダメだなあ。

トキさんの役に立つ事でも考えようと思って。
新聞の地域欄を何気に見ていたら見つけた。
短期の料理教室。
高校生限定。

トキさん、ご飯を作るのも上手だから負けるとは思うけど、最低限の事は出来るようにならないと。

「料理教室なんて、料理人から習えばいいじゃないですか」

お母様に言うとそんな事を言われて落ち込む。

「…まあまあ、紀久子さん」

お母様を宥めるようにおばあ様が口を挟んだ。

「結婚するまでに少しは人生経験として人付き合いも学んだ方がいいですし、一度行かせてみたらどうです?」

私は目を輝かせた。

「…お義母様がそうおっしゃられるなら」

お母様は苦虫を潰したような顔をしている。
そう、お母様はおばあ様に弱い。

「…そうですね。
年が明けたらいくつかお見合いのお話も頂いている事ですし。
少しは出来るようになっていないと」

そんなお母様の言葉に私は落胆する。
親が勝手に決めた縁談。
逃げたい、本当は。
でも、そういうわけにもいかない。
それをトキさんにも言えていない。
言って、トキさんとの関係が壊れるのも怖いから。

「まあ、人生の勉強と思って行ってらっしゃい」

おばあ様の微笑みでふと、我に返り、微笑んで頷いた。



夏休み限定料理教室。
定員30名。

とあるビルの一室にある料理教室で開催される。
週1日、全4日。

そこに着くともう、そこそこの人が集まっていた。
みんな、友達と来ていてもうすでに私はアウトロー。

の、はずだった。

「…今井、さん?」

後ろから声が聞こえたので振り返る。

「平野さん」

同じクラスの、平野さんがそこにいた。

「あー良かった!」

平野さんは私の隣の席に座ってホッとした様子で笑った。

「誰も知っている人なんていないって思っていたから」

ああ…。
平野さん。

可愛い、本当に可愛い。

「でも、平野さんってクラブも料理部だし…ここへ来る必要はないんじゃ?」

そう質問すると平野さんは首を横に振って

「もっといろんな人と交流してみたいなあって。来てよかった、今井さんもいたし」

そんなこと言われたら、平野さんを好きになりそうです、私。
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