それもまた一つの選択

お見合いなんて、やるだけ無駄 - 遥 -

「心、ここにあらず、ですね」

12月の、寒い日曜日。
お母様の命令でお見合いをした。
トキさんに会う約束をしていたのに。
それを破ってのお見合い。
成人式で着る予定の振袖を着せられ、出向いたのはとある日本料理店。

今井と並ぶ企業の御曹司とのお見合いだった。
お相手は今年、大学を卒業して1年目。
橋本 拓磨さん。
ただ、この方。
三男坊で今井に養子に来ても良い、という方でお母様は大層気に入っていた。

「私の心を奪えるのはこの世でただ一人です」

そう返すと拓磨さんは苦笑いをして

「僕もそうです」

意外な回答だった。

「結婚まで約束したんですけどね。
両親の猛反対にあって、今、ここにいるんです」

お母様…。
わざとそういう人を選んだのね。
そうすればお互い、傷の舐め合いでもするだろうとでも思ったのかしら。

「遥さん、僕はね。
駆け落ちしようと思っています、彼女と。
だから、僕の事は遠慮なく断ってください」

でも、拓磨さんの目は本当に寂しくて。
だから聞いてみた。

「駆け落ちするのは怖いですか?」

目を大きく開いて、私を見つめていたがやがて苦笑いをして

「そうですね、今まで親の庇護のもとにいましたから。
仕事も無くなるし、どう生きていけば良いのかわかりません」

そっか…。

「遥さんはどうです?
駆け落ちは怖くないのですか?」

胸が痛い。
トキさんの顔が脳裏に浮かんでくる。

「私のお相手はまだ大学生です。
でも、もう自分で会社も経営しています。
本当は今すぐにでも一緒に…」

そう言ってから唇を噛んだ。

「今日も会う約束をしていたのに、私が破りました。
平日は門限が17時までだから会えない。
日曜日だけが唯一、朝から夕方まで一緒にいるチャンスなのに…最低だ、私」

拓磨さんは一呼吸ついてから

「ごめんなさい、遥さん。
僕がきちんとお断りすれば良かった」

と、私に深々と頭を下げた。

「いえ、謝らないで下さい。
母が強引すぎるのです。こちらこそ申し訳ありません」

本当に頭にくる。

「いえ、遥さん。
本当に謝らないといけないのは僕です。
…彼女のお腹には僕達の子供がいるんです。
まだ3ヶ月だけど」

はいー?
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