それもまた一つの選択

心中未遂、トキさん怖い - 遥 -

日が完全に暮れたのに、まだまだ暑い8月14日。

私とトキさんはとあるビルの屋上にいた。
しかも。
柵を乗り越えて、後ろを見ると少しバランスを崩せば真下へ真っ逆さまに落ちる。

ここへ来る前、トキさんと二人で病院に行った。
妊娠しているのは間違いない。
が、まだ袋しか確認出来なくてまた2週間後に病院へ来るように先生から言われた。
少し残念。

「遥、こちらに来なさい!」

少し離れた所にお父様とお母様がいる。
二人を呼び出した形でここに来て貰った。
お母様のヒステリックな声が響いた。

「嫌」

初めて反抗した気がする。

「もう付き合って2年以上経つのに、まだ認めてくれない。
トキさんだって大学行きながら立派に仕事しているのに、何がそんなに問題があるの?」

お母様の後ろでお父様がウンウン、と頷くので笑いそうになるのを必死で堪えた。

「そういう訳のわからない事をするから問題があるのです!
それに遥、妊娠したってお父さんから聞きましたよ!
何て事を…。
今すぐ病院へ行って堕ろしなさい!」

私を抱きしめているトキさんの手に力が入った。

「よくも平気でそんな事を言われますね」

普段あまり聞こえない低いトーンのトキさんの声が私の背中に響いた。

「変な男に娘を襲わせて子供を作ろうとしたのはどこの人ですかね?
その方が異常だと思いませんか?
遥がどれだけ怖がっていたか、わかりますか?
全部、お母さんが何をされたか、わかってますよ」

お母様の眉がピクッ、と動いた。

「あなたにお母さん呼ばわりされたくありません!」

「じゃあ、極悪非道なクソババア」

私の心臓が止まりそうになるわよ、トキさん!

「何て事を!遥、こちらに来なさい!」

怒り狂ったお母様が近寄ろうとすると、トキさんはわざと一歩、後ろに下がった。

「近寄らないでください。
このまま、落ちますよ、俺達」



しばらく、お母様とトキさんの睨み合いが続いた。
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