それもまた一つの選択
「…俺だって本当はきちんと筋を通したかった。
でも、あんな事をされたら…遥を守りきれない。
だからこちらから先手を打ったのです。誰にも遥を取られたくない」

トキさんの口から好き、という言葉は何度も聞いた。
でも、誰にも取られたくないって言葉は初めて聞いた。

「遥は俺に遠慮してお見合いしている事も黙っていたけど…。
それを察するたびにどれだけの嫉妬が…渦巻いていたか。
遥と付き合っているのは俺なのに!」

こんなに感情を外に出すトキさんを見たことがない。
少し不安になって首を後ろに向けてトキさんを見上げる。

「遥、大丈夫だから」

お父様とお母様に聞こえないようにトキさんは囁いた。
でも、決して私と目を合わさない。
ずっとお母様を見つめていた。

「この前の、襲われそうになってずぶ濡れで俺の家に来て…。
そんな姿を見たら…理性も何もなくなりますよ!!」

「お黙りなさい!!」

お母様はトキさんの言葉を遮った。

「あなた如きにこの今井を支えられるはずがありません。
遥を幸せになんか絶対に出来ない!!
生まれ育った環境も何もかもが違いすぎる!!」

…どうして。
どうしてそんな事を平気で言うのよ!!

「お母様!!」

いつの間にか叫んでいた。

「トキさんは大学生だけど立派にお仕事もされています。
私がお見合いした方々みたいに親の土台があるわけではありません。
でも、少なくとも。
あの方たちよりは収入もあるし、人脈もあります。
そして何より…」

大きく深呼吸をして言った。

「家事も何も出来ない私を世界一、心から愛してくださっています」

どうしよう、泣くつもりなかったのに。
涙が流れる。

トキさんの私の前に回されたその手のひらにそっと触れた。
そう、このトキさんの手のひらも。
体の暖かさも。
もう、たまらなく愛しい。

「…わかっていただけないなら、俺達はあの世で結ばれるしかないのですね」

トキさんが思いっきりコンクリートを蹴った。
その瞬間、私の体は宙に浮かぶ。

お母様の大絶叫が聞こえた。
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