それもまた一つの選択
「妻の失言、申し訳ない」

夕食後、その食堂のような場所の隣に応接室があり、そこで遥のお祖父さん、お父さんと話をする事になった。

「いえ。
こちらこそ順序を間違えました。申し訳ございません」

お父さんには謝ったがお祖父さんには謝っていない。

「あんな事があれば、男なら怒り狂うだろう」

お祖父さんは呆れ返りながら

「昔はあんな事、なかったのになあ。
どこで紀久子さん、方向性がおかしくなったのだろうね」

家族の中で一番手を焼いているのはお母さんの事、なんだろうな。

「男の子が生まれていたら、そんな事なかったと思う。
遥の他に子供が出来ない事に…自分も俺も責めていたから」

お父さんの深いため息が聞こえる。

「責めても仕方がない事なのに。
俺は孫が欲しいとは一度も言った事がないぞ」

「それが逆にプレッシャーだったみたいだよ。
ここの家族よりも周りの…親戚だろ。
ヤイヤイ言ってるのは」

…そんなにいるのか、親戚。
でも、確か、遥のお父さんは一人っ子。

「俺の兄弟姉妹、10人だからな。
しかもまだ誰一人、死んでない!
まあ俺が長男だしな。まだ死ねないし。
ただ、都貴君が今井商事の社長になってくれたら俺、いつ死んでもいい」

そんな事を大笑いしながら言うお祖父さんの言葉に思わず飲んでる物を吹き出しそうになった。

「…お父さんのイトコは何人いらっしゃるのですか?」

「何人だろ…。30人近かった気がするな」

腕組みをして首を傾げながらお父さんは呟いた。

「紀久子は俺の従妹なんだよ。だから遥に関しては必死なんだ。
本当は紀久子が仲の良い親戚と結婚させたかったと思うけどね。
俺は絶対にあの親戚の中から遥の相手を選ぶのは反対だった」

その鋭い目。
何となく、ドロドロした人間関係が見える。
俺の家にはそんなもの、ないが。

「遥が選んだ相手がまさか。
数年前から経済界で話題を呼んでいる⦅藤野 都貴⦆だなんて。
それこそ、俺は運命を感じたけどな。
これで、ウチは安泰だと。
俺がずっと欲しかった、経営能力と情報システムの技術力。
それを君は一人で持っているんだ」

そんな褒められ方、した事がない。
ただ、好きな事をして、お金頂いているという感覚しか自分の中にはない。

「だから、今度の総会ではグループの傘下になった事を皆の前で言いたい。
挨拶、考えておいてくれ」

遥のお父さんの嬉しそうな顔を見たら

「はい」

と言うしかなかった。

「あと、明日学校に行く時、小切手の用意をしておいて欲しい」

それも、はい。

何となく、お父さんがしようとしている事、わかってきたぞ。

「その後、遥が住む、君の家を見たいんだが、いいかな?」

そりゃ、もちろん。

「あ、でも同居人というか…。
隣の家も俺の家ですが、そこに高校からの友人が住んでいます。
中の扉でお互い行き来出来るようにしてあるのですが…」

お父さんは人差し指を俺に向けて

「その子に会いたい。
城田が相当、お世話になったそうだし」

「あ、でも…」

高橋の顔が浮かんだ。

「遥と二人、住み始めたら実家に帰るって言ってました」

「尚更、会いたい。
早く、会って話がしたい」

その目、まるでビジネスの話をしている時の目ですよ、お父さん。



結局、夜中まで3人で飲んでた。
遥の小さかった時の話や今井家本家のこの場所の話。
俺の家の事。
高橋の事。
今井商事の事。
これからの藤野情報システムの在り方。

多分、今後全てが俺の肩に掛かってくる事だ。

重いなあ…。
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