囚われの雑草姫と美麗冷酷男子の生活
気付き
作ったご飯を彰貴さんはグラスに注いだビールを飲みながら淡々と食べて

「旨いな、やっぱり…」

ぼそりと呟くので…私は食事をしながら頭を下げる

「有り難うございます」

「それに珈琲、今朝飲んだときいつもと違ったのは何でだ?…豆は同じだろう?」

いつもはあの難しそうなマシンで淹れているのだろうか

「ハンドドリップしたから…ですかね?」

「珈琲メーカーは使わなかったのか」

彰貴さんは不思議そうに首を捻る

「使い方が分からなくて…金属のフィルターがありましたので、お店で教わった通りに淹れました…ルュミエールでは珈琲はハンドドリップなんです…」

「なるほど……あれは旨かった。レストランの評判が悪くないのは珈琲でも分かるな」

ビールを飲み干した彰貴さんの瞳が心なしか潤み、頬にほんのり赤みがさす
…おそらく湯上がりで、濡れて下りた前髪も相俟ってそれが色気となって見えるからドキドキし過ぎてしまい
…私はこっそり深呼吸をした

(平常心!!)

「あ、彰貴さんはルュミエールでお食事したことはないのですか?」

「そういや無いな…シェフを採用する時に試食した位だな」

勿体ない!
ルュミエールは美味しくて本当に良いお店だから

「リュミエールは食事はもちろん心を込めてするおもてなしも一流だと自負しております!…私なんの特技もありませんが…誇りを持って今の仕事させていただけるんです」

「そうか…それはいい、驕ってはいけないが…仕事に誇りを持つのは大事なことだ」

彰貴さんは口許を少し緩ませた

(ただ冷たい人、じゃないと思う)

「ぜひ、今度いらしてください」

私は嬉しくなって声をかけるが

よく考えたらホテルの経営陣であり、忙しい身の彰貴さんに失礼だったかもしれない…そんな風にモヤモヤしている…

「あぁ、機会を作るよ…なぁ那寿奈、明日の朝も淹れてくれるか?珈琲…」

そんな風にあっさりと言ってくれた

(やっぱりこの人は冷たくない…)

今も私の話を否定せずに聞いてくれ
美しいアーチを描くアーモンド型の瞳で真っ直ぐに私を見ている

冷たいほどに冴えざえとしているけれど優しそうな目…

「ええ、それが条件ですから!しっかりやらせていただきます!」

そう答えると彰貴さんは少しだけ微笑んで

「ご馳走さま…そろそろ休むから、もう那寿奈も休むといい…」

と、席を立った

「はい…おやすみなさい」

ごく自然な動作で食べたお皿をシンクで流し、食洗機に入れていく彰貴さん

(慣れてるのかな?でも食事は作ってないみたいだし…)

後ろ姿を見送ると私も食器を片付けて洗面所に向かう


広い洗面所でしゅこしゅこと歯磨きをして…鏡に映る自分の顔を久々にちゃんと見た…

目は少し落ち窪み…顔色もあまり良くない

『疲れてる』…そう見えた

(しっかりしなきゃ…)

今までだって色んな事があったけど乗り越えてきた
これからもきっと大丈夫!
そう、自分に気合いを入れ直して顔を洗ってから
ふかふかのタオルに押し当てて拭いた時だった

「え?…あっ…」

身体がフワリと浮き上がる







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