囚われの雑草姫と美麗冷酷男子の生活
二人の関係は
「誰だ…那寿奈が思うやつって…」

「彰貴さん…離してください」

「すまない…痛かったか?」

痛くはないが離し欲しくて言うと慌てて彰貴さんは手を離す

「痛くはないです…」

「良かった…でもな?那寿奈が家が無いと困ってる時にそいつには頼めないのか?
そんな男なのか?それが許せないぞ」

彰貴さんは本気で心配してくれているようだ

「ありがとうございます。その…頼めませんでした…でもとても素敵な方ですよ」

「素敵なわけあるか!君は騙されていないか?」

まさか本人だから気付かないだろうけれど

(きちんと家のない私を救ってくれています…素敵な方ですよ?)

「その方は私に住む場所を与えてくださいました…」

ここは拒否されてももう隠して居たくなくなった

この家での生活が解消されても
…彰貴さんのために演技は続けよう、そう思うけれど

「え…」

彰貴さんの動きが止まった

黒曜石の瞳が潤んで探るようにジッとこちらを見る

だから私も目を逸らさずに真っ直ぐに見つめ返す

『二人の間に恋愛感情を持ち込まない』

この条件に背きます…

この想いは散っても

伝えずにいられない私を許してください

(好きです…)

「その方は私の仕事を熱心だと褒めてくださいました、毎日おはようと声を掛けてくださいました
…かつては…好きな人にあれをしてもらいたい、これをしてもらいたい、そう思っていましたが違いました
たとえ傍にいられなくなっても、思いが報われなくても…その方が幸せになれるようにと毎日思って…心から相手の幸せを願う…それが人を本当に好きになることだと今は思います」

「那寿奈…」

答えなど聞きたいわけではない

ただ貴方に思う人が居ることを伝えたかった
伝えずには居られなかった

「申し訳ありません彰貴さん…私、好きになってしまいました貴方を…」

深々と頭を下げる

次に言われる言葉が怖いけれど後悔はしていない

頭を上げられずにいるとすっと空気が動くのを感じ…
次の瞬間彰貴さんの柑橘系の薫りが私を包む

(え…)

気付けば私は彰貴さんの腕の中にいて…
目の前には彰貴さんの程よくついた筋肉が感じられる胸がある

「なんで謝る……」

「だって…二人の間に恋愛感情は…」

私は以前にもらった条件を口にすると彰貴さんの声が曇る

「条件には書いたけど…それはあくまでも恋愛目的ではこの依頼は受けて欲しくないというか…」

きゅっ

さらに抱き締める力が強まり…苦しい位だ

「撤回する、それ…」

「え?」

顎を持ち上げられ艶やかな黒い瞳と視線がぶつかる…



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