囚われの雑草姫と美麗冷酷男子の生活
黄色のブランケット
「ん…」

いつの間にかチェアで鞄を抱えたままブランケットをかけて寝ていたようだ

…この黄色いブランケットだけ貰ってきた

日だまりのように柔らかくて暖かいブランケットは
巻いて練ればきっと孤独にはならないだろうと思えたし
これに触れていれば…彰貴さんを思い出せた

「彰貴さん…勝手に持ち出してごめんなさい…」

小さく呟きながら……パソコンに向かう

すぐにでも働かないと…食べることも出来ない

(あ、家も携帯電話が無いと…)

家がないと職にありつくのは実は難しい
これは前の時に学んだことだった

(どうしよう……まずは住居をどうにか出来る仕事を探さなくちゃ)

検索していくと
…やはり中々住み込みと言うのは見つからなくて

1番多いのは使用人だけれど…
紺上にも辻堂にも繋がらない家と言うのはきっと難しいだろう…

色々見ていったが…やはり飲食店から入り込むのが一番良いかもしれない 

募集はとても多かったので少し離れた街の募集で幾つかピックアップして書き取ると鞄に仕舞った


時計を見れば始発が動き出す時間で…
身支度を整えて外に出ると電車に乗り込み

とりあえず…
あまりにも邸宅に近いここはもう出て、離れよう

街を変えれば少し気分も状況も違うかもしれない

朝のひんやりした空気の中、ボストンバッグを抱えて人も疎らな駅のホームに立つと空を見上げて見る

まだ明けきらなくて星空の名残がある空を見れば

彰貴さんと二人で見上げた満天の星を思い出す

(彰貴さん…)

美味しそうな食べ物の広告を見ると

二人で食べた朝食を思い出す

(彰貴さん…)


納得して離れたはずなのに
私の心の中は彰貴さんでいっぱいで…
何を見ても彰貴さんとの思い出に繋げてしまいそうだ

それは…すぐには消えてくれそうもなかった

(だけど、抱えたまま進まなきゃ)


やがてやってきた電車に乗り込むと終点まで行こうと鞄を抱えて目を閉じると
心地よい揺れに本格的に眠気がやってきて…
ゆっくりと眠りに落ちていく

優しい夢を見たいな

そんな風に思いながら……






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