囚われの雑草姫と美麗冷酷男子の生活
新しい場所での生活は幸運にもすぐに始められた

「いらっしゃいませ」

「お、なっちゃん今日はA定食頼むよ」

「オレも!」 

元気な工場作業員さんが主なお客様の定食屋さん
今はここが職場だ


近くに大きな工場がいくつもあって
そこで働く作業員さんが昼と夜と毎日沢山通ってくるのだ


「はーい!」

私はテーブルを回ってあちこちから一気に注文を受けて厨房に返す

高級レストランとは違う速いテンポでの注文、品出し、会計
目まぐるしく仕事は展開していく

(忙しいからいい…)

色々と考えている暇はなく、仕事に没頭できるから私には都合が良かった

父や母世代のご夫婦が経営するこの定食屋は
アルバイトを募集していて…事情を色々と隠しながら話したけれどそれを聞いて雇ってくれた上に

「今は誰も居ないから、休憩室だし狭いけど…」

と、お店の上に部屋まで貸してくれた

「ありがとうございます…」

有難く住まわせてもらって生活を始めて2週間

定食屋の仕事にも慣れて来た

「那寿奈ちゃんは手際がいいから助かるわ。笑顔も可愛いしねぇ。このまま誰か良い人でも見つけて
この辺の子になっちゃいなさいよ、もう娘になんなさい」

おかみさんはそんなことを言って笑って可愛がってくれるし

「いい人できたら連れておいで見定めてやるからな?」

なんて、ご主人もとても優しくしてくれる

紺上も辻堂も関係ない場所で私はしっかりいきていこうと毎日くたくたになるまで働いて
夜は黄色のブランケットに包まって眠る

彰貴さん以上の人なんて中々出会えない

あんなに私が幸せになって欲しい人なんて…この先現れるとも思えない

…だから私は『思い出だけで生きていこう』
そう決めていた



そんなある日
定食屋で流れていたテレビのニュースに耳を疑う

「え…」

『本日、紺上財閥のトップ 紺上ユキヒサ氏が病気を理由に退任との発表がされました…尚後継者には……』

あの祖父が病気で退任?
あんなに元気だったのに?

しばらくぼんやり画面を眺めていると
おかみさんに声を掛けられる

「どうしたの那寿奈ちゃん…」

「あ、いえ…何でもありません…急いで準備しないとですよね!」

間もなく12時、工場の昼休み開始とともにお客さんが雪崩れ込んでくるから
準備をしっかりしないといけない

「そうね、毎回ものすごいからねぇ…頑張っていくわよ!!」

おかみさんは腕まくりをして暖簾を出した

「はい!」



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