誓いのキスを何度でも
放っておいた洗濯物をたたみ、リビングでアイロンをかけているとドアをコツコツとノックする音がする。

ドアを開けると誠一が嬉しそうにドアの外に立っていたけど、

「不用心だな。ちゃんと確認してから出るようにしろよ。…ここってオートロックじゃないし、セキュリティーが心配だよな。
俺がはやく部屋を見つけて引っ越しさせないと…」とか
最後の方の言葉はぶつぶつと独り言のようになって私の横を通り抜ける。

まだ、付き合うとも、一緒に暮らすとも決めてないけど…


「誠太郎、寝た?顔を見てもいい?」と寝室のドアの前で立ち止まるので、
頷くとそっとドアを開け、しばらく誠太郎の寝顔を見てから、ドアを閉め、リビングに入った。


誠一はリビングでアイロンがけをしていたのに気づいて、

「家事、まだ終わらない?手伝おうか?」

「もう、終わるよ。家事なんてするの?」と言いながらアイロンを片付ける。

「留学先では普通にしてたよ。
まあ、アイロンなんてかけなかったけど…
こっちじゃ、何にもしないかな…
俺がするのは桜庭総合病院の副院長として桜花グループの会議や接待に出るだけ。
外科医としてほとんどオペもしない。
馬鹿馬鹿しい。
何のために外科医になったんだ?
あそこには俺の自由はない。って思った。
だから、もう辞めたんだ」

「本当に仕事を辞めてきたの?」

「そうだよ。
この間、果歩が結婚してないって聞いて、…
全部捨てることにしたんだ。
果歩だけは唯一俺が選んだ大切な存在だった。
他の男と結婚したって聞いて一度は諦めたけど、
まだ間に合うかもって思ったらいてもたってもいられなかった。
今度こそ誰にも邪魔はさせない」

真面目な顔で私の顔を見てから電球を持って洗面所に向かった。






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