この手だけは、ぜったい離さない
身体を反転させると、はるちゃんは「こんなところに呼びだすなんて、何か大切な話しがあるんでしょ?」って笑っていた。
「うん……すごく、大切なお話しなの」
はっと何かを思いだしたように目を見開き「あっ、もしかして恋愛相談とか?追野くんのこと?」と言ったはるちゃんのその声は、楽しげに弾んでいる。
「えっ、追野くん?何で追野くんなの?」
「あれ、違うの?合宿で追野くんと仲良くなれたんだなって思ってたから。ほら!野外炊事で指をケガしたときなんて、ふたり仲良く宿舎に戻ってたじゃん?」
「いや……まぁ恋愛に関するの話しなんだけど。でもそれは追野くんのことじゃないんだ」
「恋愛に関する話し?……なに、好きな人でもできた?それとも彼氏?ねぇ、誰のことを話そうとしているの?」
はるちゃんの表情に影が落ちる。
きらきらと輝いていた瞳からは光が消え、氷のような冷たさがまとう。
私が追野くんの話しじゃないって首を横に振った瞬間。
はるちゃんは、私が誰のことを話そうとしているのか気づいてしまったみたいだ。
私を見つめるはるちゃんの瞳が怖い。
まるで『洋の名前はだすなよ』って圧をかけられているよう。
だけど私は、はるちゃんの冴え冴えとした瞳から目を逸らさなかった。
「私ね……洋くんのことが好きなの」