この手だけは、ぜったい離さない



『え、断んの?お前にしては珍しく考えさせてくれ、なんか言うからよぉ。南海と付き合おうか悩んでんのかと思ったわ』

『考えさせてっつったのは、あの場にすげぇ人だかりができてたからだよ。周りから注目されてる中でフるのって、なんか可哀想じゃね?だから明日、ふたりきりになったときに断るつもり』



南海遥は確かに可愛いんだけどな。

でも俺の中ではやっぱり、あかり以上の存在はいない。

それが他校のやつらからも可愛いって噂されている、南海遥であったとしてもな。



『へー、洋にもそんな優しさがあったのか。今まで数えきれないほど告られといて、ぜんぶ秒速で断ってきたお前が』



ノリはゲームのコントローラーを手にテレビ画面を眺めたまま『でも南海をフるのはもったいない』とかって言ってくるけど。

俺からすれば『好きでもねぇやつと付き合ったってつまんねぇよ』っつー、今まさにノリに言った言葉こそが本音だから。



ノリに『モテるくせになんで彼女つくらねーの?』って聞かれたけど、俺は何も答えなかった。

だって『6年間片思いしてる子がいるから』とか、恥ずかしくて言いたくねぇし…。



ノリは親友だけど、俺が片思い中ってことはぜったいに言わねぇ。



……そう思ってたけど、高校の入学式を終えたその翌日のこと。



校舎の裏で授業をサボってるとき。

『お前、あの子のこと好きなのかよ?』とノリに聞かれてしまったから、俺は『うん、あかりのことが好きだ』って素直に打ち明けた。



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