同僚は副社長様
「けど、なんです?」
「いつも外食の俺が、突然に社食スペースで手作りお弁当を食べるという光景は、社員からの注目を浴びそうだな、と」
「副社長が現れただけで騒ぎになるのは明白では?」
そうだね、と苦笑いで返してくる副社長は、自分が目立つ存在であることを素直に認めている。
何を今更、という意味を込めた表情をしている私の意図を読んだのか、副社長は苦笑いを深めて言った。
「俺にとって、美都が作ってくれたご飯を食べる時間は憩いなんだ。できれば、静かに、美都と食べたいと思うのはワガママか?」
「いいえ、ちっとも。では、ここでいただきましょう」
なるほど。
それだけ、私の作ったお弁当を楽しみにしてくれてるんだ。
嬉しい気持ちが心いっぱいに広がって、それ以上のことは言わなかった。
「…それと、オフの時は”副社長”じゃないでしょ」
「ごめん、古川くん」
「本当は”秋斗”って呼んで欲しいものだけどね」
え?なんて?
頭の回転が一人より倍速以上速い古川くんのようにオンとオフがはっきりできないことを注意されて、「またやってしまった」と心を改めていて、ボソッと彼が放った言葉はよく聞こえなかった。
ほんの前までは、こんなお昼休みに”副社長”と呼んでも何も言ってこなかったのに。
ちょっとした古川くんの変化に、私は慣れずに内心戸惑わずにはいられない。
小さな呟きが古川くんの本音であることに気付きもしない私は、副社長室にある客用テーブルに2つのお弁当を広げる。
古川くんの真向かいに座ろうとした私を、距離が遠いという理由で真横の位置に修正された。