同僚は副社長様
「美都、可愛い顔が見えないのは困るから顔上げて」
「え?」
この状況に耐えられなくて下がりっぱなしだった視線が、彼の言葉で一気に真上へ急上昇した。
うわ、近いっ…!
想像以上の至近距離に、またもやフリーズ。
ちょっと待って、さっき…古川くんってば、変なこと言ったよね?
「古川くん?」
「昨日も言ったけど、食費代なんて気にしなくていいから、今日みたいに俺用と自分用でグレード下げないで。明日も今日と同じようなことしたら、俺が美都用のお弁当食べるから」
「それはダメっ!」
そんなの、古川くんのためにご飯を作る意味がなくなっちゃうじゃない!
首を横に振り続ける私の頭の上に、彼の大きな掌が乗せられた。
「でしょ?じゃあ、こんなこともう2度としないでね」
「ん…わかった」
なんだか、最後には彼に言いくるめられた感が否めないけど、これ以上反論しても無駄だと、私の能無しな脳みそでもわかったから、素直に頷いてみせた。
その瞬間、ふわりと笑った古川くんの表情は、見たことないくらい甘くて。
思わず、息を飲んで見つめてしまう。
な…に、コレ。こんな風に甘く笑う人だったの?
こうしてまた、私は古川秋斗という男の魅惑に嵌っていく。
このとき、もう引き返せないところまで自分がハマっていることに気付くはずもなく。
古川くんの気分が良いから、こんな眼福が観れたのか、くらいにしか思わなかった。