同僚は副社長様
「じゃあ、今日のところはこのハンバーグを分け合いっこしよう」
あの古川くんが”分け合いっこ”って言った。
ここ数分、彼の甘い毒牙にかかりっぱなしの私は、思考回路がすでに正常に保てていない気がする。
ボーッと彼を見つめている私の口元に、彼がお箸でつまんだ”半分こ”されたミニハンバーグが運ばれてくる。
「美都、あーん」
「へっ…」
こ、これは何の拷問でしょうか、神様。
あの古川くんが…仕事完璧主義者で、真面目な古川くんが、同僚の私に”あーん”?
明日は嵐でも吹き荒れるの?
それとも、私は近い未来死ぬのでしょうか。
「ほら、口開けて。はやく」
「あ、あー…ん、」
ピトッとハンバーグを唇に押し当てられて、言われるままに口を開くと、口の中にハンバーグを入れられた。
わ、私…古川くんに”あーん”されちゃったよ…
半身上の空で、もぐもぐと咀嚼する。
「美味しい?」
「うん、美味しい…」
「だよな。美都が作るご飯が一番美味しいもんな」
正直、ハンバーグの味を感じているどころじゃない。
こんな夢みたいなことされて、味覚が正常に働くわけがない。
なんなら、空腹感も幸福感が勝ったおかげでスッと何処かへ消えてしまっていた。
だけど、またもや古川くんが私のことを褒めちぎるものだから、いよいよ私は失神しそうなレベルだ。
今日、私死んでもいいかも。
私のお弁当に入っていないおかずを半分こして”あーん”されながら、そんなことを思うのだった。