同僚は副社長様
「それが、恋人がいないならこちらで用意を整えると言うんだ。母さんが」
「…いわゆる、政略結婚ってやつ?」
「まぁ、すぐに結婚はないとしても、それを見据えて…だと思う。両親は俺の婚約者は杏奈だろうとふんでいたから、相当ショックだったんだろう」
まぁ、私は直接2人がいるところを見たことはないけど、古川くんから聞いていた話だけでも、幼馴染以上の親密さはうかがえた。
休日は頻繁に会っていたようだし、平日も食事に出かけていたと記憶している。
だから私も、古川くんと杏奈さんはいずれ恋仲になって結婚するんだろうと思っていた。
杏奈さんも由緒正しきお嬢様だし、私なんかじゃ到底歯が立たない。
そんな中、片想い相手の婚約者というポジション枠を差し出されたわけだけど…、どうしてだろう。
全然、喜べない。
「古川くんが困っているのはわかったよ。でも、どうして私なの?古川くん、他にも女友達くらいいるでしょう?」
せっかく夕ご飯の匂いでお腹ペコペコだったのに、食欲はとうの昔に沈んでどこかへ消えていってしまった。
こうして私を頼ってくれるのは気分が良いけど、古川くんに私に対する特別な気持ちが見えないから思考はどんどんネガティブになる。