同僚は副社長様



「ちょっと…待って。さすがに、理解できない」

「うん、無理を言ってることはわかってる」

「秘書じゃ、ダメなの…?」


なんで、婚約者?

古川グループは代々家族経営で発展を遂げてきた大企業だ。

でも、古川くんのお父上である社長はまだ還暦にも達していない。世間一般で言えば、まだまだ若い。

社内でも世代交代の話なんて微塵も上がっていないというのに、このタイミングでの婚約者発表は時期尚早な気がする。


「両親がうるさいんだ。杏奈が結婚してから特に口酸っぱく恋人の存在を聞いてきて困ってる」


本当に困っているのか、古川くんは眉を下げて困り顔だ。

私はこの顔に弱い。

だって、好きな人が困ってたら、助けてあげたくなっちゃうじゃない。

でも、今回ばかりはすぐに頷けない案件だ。

婚約者なんて身が持たないし、そんな嘘の関係を片想い相手と始めてしまったら、もう戻れなくなる。

古川くんの心が欲しくてたまらなくなる。


「そんなの、いつもの古川くんならかわせられるんじゃないの?」


古川くんと飲みに行った時、彼から両親が恋人云々と詮索してきて困っているという口は幾度も聞いたことがある。

その度に軽く受け流していると古川くんは言っていたから、今回だっていつものように対応していればいいと伝えるも、依然として古川くんの曇り顔は晴れない。


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