同僚は副社長様


私は特別な気持ちを古川くんにたいして抱いているけど、古川くんは私を頼り甲斐のある同期程度にしか思っていないだろう。

ここは期待値は低く考えていた方がいい。

ご飯作ることを私に頼んだのも、私に特別な感情があるのではと舞い上がったところで、何も良いことはない。


「学生時代の友人に突然こんなこと頼めないさ。社会人になって新しく友人なんて同期くらいしか…まぁ、気心知れた同期は美都くらいしかいないし」


遠回しに適任者は私しかいないと訴えられるが、こっちだってそう簡単に首を縦に振るわけにはいかない。

中々「うん」と言わない私を不審に思ったのか、急に古川くんの顔つきが変わる。


「まさか美都…彼氏、いる?」

「えっ…」


この質問は…どう答えよう。

素直に「いない」と言えば、じゃあ適任だとさらに外堀を埋められそうだ。

でも、「いる」と答えれば、婚約者はお役御免となりそうだけど、根掘り葉掘り聞かれたときにまともな返しができそうにない。

私は嘘をつくのが苦手なようで、いつも周りから美都は嘘が下手だねと苦笑いされた経験が幾度とある。


「もしかして、この前話していた男か?」

「え?」


答えに困っていると、神妙な顔つきでこちらを見つめてくる古川くんと目があった。

この前?

思い当たるのは、響くんのことだ。

でも、ちゃんと飲み屋で響くんは友人のお兄さんだと弁明したのに、まだ古川くんは疑ってる?


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