Dear Hero
「ここにいらしたんですね」


カラオケの非常階段。
だんだんとみんなが盛り上がってカラオケに夢中になり、俺のところに来る奴もいなくなってきたので、息抜きがてら、建物の外についている非常階段に出て一息ついていた。
夜風に当たりながら、肩の荷も下りたし、さてどうやって水嶋に気持ち伝えようかなと思案する。
そんな時に現れたのが、水嶋だった。

「よく見つけたな」
「澤北くんだったら、こういう所かなと思って」
「俺を探しに来たの?」
「……はい」

まじか。俺はまだ心の準備ができていないのに。
「お隣、良いですか?」と言うので頷くと、ほっとしたように俺の隣に来て手すりに手をかけた。
久々の距離感。
大丈夫、ここは外だ。そこまで俺は節操なくないぞ、と言い聞かせる。


「カラオケ、いいのか?」
「実は初めてなんですけど、ちょっとノリについていけなくて」

あぁ確かに。マイク片手に大声で歌う水嶋の姿なんか想像できない。


さて、何から話せばいいのだろうか。
話したい事は山ほどあるのに。
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