Dear Hero
***


樹さんに連絡してからというもの、俺の周りは忙しない。
元々多忙だった父さんは帰ってこない日も多く、母さんは夜遅くまで誰かと電話している事も多かった。
姉ちゃんでさえ、遅番の日でも朝早くから出かける事もあった。
樹さんは、昨日電話をくれてこれからどうなるかを教えてくれた。



「…なんか、今までいなかった人がいなくなっただけなのに、全然うちじゃないみたい」


テレビの画面から目を離さないまま、ゲームのコントローラーを操作する颯希がボソッと呟いた。
画面の中では、主人公と共に夢の国のキャラクターが一緒になって走り回っている。


「…俺も、そう思う」

「兄ちゃん、ゲームしよ」なんて誘ってきたくせに、ソファを背もたれ代わりに結局一人でプレイしている颯希。


「早く依さん帰ってきたらいいのにな」

ソファに座りながら、そのゲーム画面を見ているようで見ていない俺。


「………俺も、そう思う」


俺の返事なんてどうでもいいんだろうな。
不器用だけど、なんとなく俺の気を紛らわせようとしてくれているんだと思ったら、普段憎たらしい妹もかわいく思えてくる。


「颯希、あんがと」
「別にいいけど頭撫でないで。前見えない、ウザい」
「ウザ…!?」



机に置いていた携帯が鳴る。
樹さんからの着信だ。

「……はい、今から出ます」
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