Dear Hero
今度は、俺の頭の中が混乱する番だった。
状況が理解できなくて固まる俺を、気まずそうに見上げる依。

「………どうゆう事?」
「確かに…父から一緒に帰らないか?というお話はありました。でも…」


目線を落とすと、俺の制服をぎゅっと握る。


「大護くんと離れなくなかったから……こちらに残してもらう事になったんです」
「………」
「本当は、わかっていたんです。母が普通じゃないという事は」
「………」
「私の中の“母親”像は、10年前で止まっていたから。少し前の私だったら何も疑う事なく母の言うがままだったと思います」
「………」
「大護くんのおうちの温かさを知って、何かが違うと思った。なんとか、これが母なりの愛情なんだと思おうとしました」
「………」
「でも……本当に愛してもらえているのかわからなかった」
「………」
「本音を言うと、あの日、母と離れてほっとした自分がいたんです。娘なのに、薄情ですよね」


自嘲的な笑みが、何度も何度も悩んで悩みぬいた証のように思えた。

「大護くんにはたくさんひどい事をしたし、言いました。お見苦しいところも見せたし、振り回したし、もう突き放されてもしょうがないと思っています」
「………」
「それでも……大護くんの隣に戻りたかった…」
「………」
「わがまま言ってごめんなさい……」


……これは、夢なのだろうか。
依が、戻ってくる?


「………つまり、これからも俺ん家に…?」
「……お世話になる事に…なりました…」
「………なんだよそれえぇぇ…」


力が抜けて依の肩にもたれかかる。
だるんだるんになった俺を、背中に手を回した依が支えてくれた。


「……そんなんなら連絡しろよ…」
「ごめんなさい、携帯の充電器が大護くんのおうちに置きっぱなしで…」
「俺なんも聞いてない」
「父が、大護くんのお母さんには改めてご挨拶したと言っていて…」
「聞いてない」
「すみません……」
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