Dear Hero
時間が経つにつれ、いつのまにか彼女の震えが消えていくのがわかると、一気に力が抜けた。
冷静さを取り戻した時、ふと気付く感触。

「……」

恐る恐る目線を下にやると、視界に入るのは少し身体を離した俺に気付きこちらを見上げる水嶋の顔と———



……!
胸、当たってるんですけど———!!!


『でもアイツ、意外と胸でかいから』


バカか俺!なにこんな時に哲ちゃんの言葉思い出してんの!

さらにチラリと視線をずらすと、飛び込んでくるのは乱れたままのスカートから覗く白い太もも。

「〜〜〜っ!」

勢いよく水嶋の身体を引き剥がすと、急いで顔を背ける。
動揺しているのを悟られないように、腕で口元を押さえながら指差すは彼女の胸元。


「?澤北く…」
「…ごめん、今さらだけどちょっとその格好、健全な男子高校生には刺激が強すぎるかも…」

できるだけ水嶋の方を見ないようにしていても、顔が熱くなるのがわかってすげー恥ずかしい。
俺の言葉に、差された指の先に目線を移し、状況を把握した途端「きゃああ!」と叫び、腕で胸元を隠した。
ボタンの取れたブラウスでは隠し切ることができないようで、こちらに背を向けたまま動けなくなっている。
このままじゃここから離れる事も出来ない。

「…水嶋。ちょっとクサくてもガマンしてね」
「?」

自分のカッターシャツのボタンを外すと、手早く脱いで臭いチェック。
うーん、そこまで汗クサくはない…はず。

「これ、着ときな」

くしゃっと丸めて水嶋の方に投げると、振り向いた途端に顔にバサッとかかる。

「え…でも澤北くんは…?」
「俺は下にTシャツ着てるから大丈夫」
「でも…」
「早く着てくれないと俺が目のやり場に困る…」
「…っは、はい!」

水嶋が俺のシャツを着ている間に、外で雨に打たれたままになっていた靴と鞄、傘を拾いに行く。
ローファーは運よく底が上向きになっていたので、そこまで濡れていない。
学校指定の通学鞄は、防水加工がされているのか思っていたより浸水していなさそうだ。
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