Dear Hero
「……さて。どこか行きたい所ある?」
「うーん。どこがあるんだろう…」
「いつも紺野は何して遊んでんの?」
「友だちと遊ぶ時はだいたい買い物したりカラオケかなぁ」
「カラオケねー。なに歌うの?」
「正直ね、友だちと行く時はちょっとつまんない。私が歌いたい曲は、みんな知らないから」
「あぁ、あれね」
「かといって、アイドル曲とか恥ずかしくて歌えないし」
「なんか……女子もいろいろ大変だな」
「テツくんは?」
「俺は何でも歌うよ。アイドルだって振り付きで歌っちゃうし」
「女の子のも?」
「男のも、女のも」
「なんでまたそんな幅広く……」
「盛り上げ隊長はね、レパートリー多くないといけないの」
「なにそれ」


くすくすと笑う紺野。
あ、これ信じてないな?
この前、クラスでやった文化祭の打ち上げだって、俺へのリクエスト止まらなかったんだからな。


「なんか、話の流れ的にカラオケ行きそうになってるから言っておくけど、今日は行かないからな」
「なんで?」
「当たり前だろ。あんな密室で紺野と二人きりとか、俺が耐えれるわけないじゃん」
「……!」
「それとも、キスの一つや二つ、紺野がお望みならいいけど……」
「ま、また今度ね…!」



……それ、今度ならいいって事?
ちょいちょいジャブを打ってくるこの女の子に、俺は振り回されっぱなしだ。



「まぁ、適当にブラブラしてりゃいっか。紺野といられたらいいわけだし」
「……よくもまぁ、テツくんはそうやって歯の浮くような事ペラペラ言えるねぇ」
「だって全部本音だもん。俺は自分に正直なの」


「なんかずるい」とか言いながら腕を殴られる。
パーじゃなくて、グーだった。


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