Dear Hero
紺野を連れてきたのは、俺の家の近所にあるもんじゃ屋さん。
店先に掛けられた暖簾は、ずいぶん年季が入っている。

「ここ、子どもの時から家族とよく来てる店なんだ」
「へぇー…昔ながらって感じ」
「本当は、もっとオシャレなカフェとかそういう所のがいいかなって思ったんだけど、なんか、俺じゃないよなぁって思ってさ」
「テツくんらしくて、素敵だけどな」
「建物はボロいけど、味は保証するよ」
「楽しみ!」

紺野の目がキラキラと輝く。
やっぱり、食い意地張ってるよなぁ。


「お、哲平か。なんだ、お前もついに彼女連れてくるようになったか」
「大将、ちーっす!“まだ”彼女じゃねぇよ!今口説いてんだからジャマすんなよな」
「言うようになったなぁ。お嬢ちゃん、ゆっくりしていきな」
「あ、はい!ありがとうございますっ」

厨房から大将が元気な声をかけてくれる。
ピシャッと背筋が伸びる紺野に「気張んなくていいから」と声をかけると、ふにゃっと力が抜けたように笑った。


「俺らが子どもの時から見てるから、親父面してるんだよ」
「なんか、いいなぁそういうの。あったかいね」
「大将だけじゃなくてさ、常連のじいさんとかもそんな感じ。やれ受験はどうだとか彼女はできたのかとか。髪染めた時なんか自分の親父には何も言われなかったのに、ここでめっちゃ怒られたりとか」
「あははっ。愛されてるんじゃん」
「最近、ちょっとうっとうしいけどな」
「おい哲平!聞こえてんぞ!」
「……っ!」

後ろから飛んでくる怒号に、紺野は顔をくしゃくしゃにしながら笑っている。


「ほらよ。俺からべっぴんさんにサービスだ」
「サンキュー大将!愛してる!」
「よせやい、俺には長年連れ添った女房が……ってテメェにじゃねぇ!お嬢ちゃんにだ!」

大将が置いていってくれたのは、俺が大好きな軟骨の唐揚げ。
興味深そうに覗き込む紺野。

「軟骨。食った事ある?」
「ないかも。こういうお店あんまり来た事ないし…」
「コリコリしてんの。俺、これ大好きでさ」
「食べてみていい?」


一つ、口の中に放り込んだ紺野は、もぐもぐもぐと食感を楽しむとパァっと顔が明るくなる。

「美味しい!」
「だろ」

俺がもんじゃを焼いてる目の前で、幸せそうに次から次へと軟骨を頬張る。
あ、これ。俺の分なくなるかもしれないぞ……。

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