Dear Hero
「哲ちゃん、誕生日おめでと」

大護の声と共に、上からメロンパンが降ってくる。

「うおっ!これ、購買幻のクリーム入りメロンパンじゃん!」
「うん、ちょっとがんばってきた」
「サンキュー大護、愛してる!」
「ごめん哲ちゃん、俺、心に決めた奴がいるんだ……」
「なん……だと……」
「なんの茶番?」

俺と大護のアホなやり取りを、孝介がクールにぶった切る。
いつも通りの日常。
昨日までと違うのは、今日から俺が17歳になったって事だ。


「哲ちゃんの誕生日祝い、今週だよな?」
「おう、盛大に祝ってくれ」
「プレゼントは、その時渡すから」
「あざす!孝介先生!」
「期待してろよな!」
「大護のは期待したくない」
「んだよそれ!もうやんねぇぞ!」
「イヤだわ、大ちゃん。そんな事言わないで」

ぎゃははと笑う大護は、一生懸命黒板を消そうとしている水嶋の姿を見つけると、「ちょっと行ってくる」とだけ残して手伝いに行った。
大護に黒板消しを手渡し、嬉しそうに微笑む水嶋。
そんな水嶋を見て、優しい顔をする大護。


なんだかんだで言い訳をして、大護は水嶋に気持ちを伝えていないという。
なのに、二人はどう見たって両想い。
そして、本人たちもそれがわかっている。

俺は、伝えられるのであれば伝えたいタイプだから、大護の気持ちはよくわからない。

だけど、いくら伝えても相手の気持ちがわからないのなら、伝えないままの方が良かったのかな、なんて考えもするようになってきていた。



あのデートの日から、紺野とはコンタクトを取っていない。
俺の悪い癖だ。
自分が弱くなると、すぐに紺野を突き放す。

もっとしっかりと、心がブレずにどっしりと、構える事ができればいいのに。


自分から距離を置いておいて、直接「おめでとう」って言って欲しかったな、なんて思ってしまうのは、さすがにわがままだとは思うのだけど。



今日は水嶋の買い出しについていくと言った大護。
米を買うから男手が必要なんだと。夫婦か。
塾でテストがあると言った孝介。
この前の模試で、県内で5本の指に入ったって言ってた。住む世界が違う。


せっかくの誕生日なのに、帰りがまさかのぼっちでテンションだだ下がりだった。


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