Dear Hero
スーツの男
携帯のアラーム音で目覚める朝。
昨夜からつけっぱなしの扇風機が生温かい風を押しつける。

今日も、水嶋と市場調査に行く予定だ。
きっと、日数的に夏休みの市場調査は今日が最後になる。
お店候補に迷っていたら口を挟んできたのはまたも姉ちゃん。


「しょーがないなぁー。とっておきのお店教えてあげる!予約もしといてあげるからね!」


やたらニヤニヤしてたのは気になったものの、それでも今まで姉ちゃんに薦められたお店にハズレはなかったから、安心して甘えてしまった事を、俺は数時間後にちょっとだけ後悔する事になるのだけど。



眠気が覚めないまま1階に下りてリビングに入ると、ソファに寝転び夏休み特集のアニメを見ている、これまただらけきった颯希。
そのソファの片隅に見た事があるような鞄が目に入ったけど、それをどこで見たのか思い出せず、とりあえず汗のベトベトを洗い流すべくシャワーを浴びに行く。

冷たいシャワーは、身体の汚れを洗い流してくれるだけでなく、寝ぼけた頭をスッキリとさせてくれる。
このままずっと水を浴びていたい気持ちにフタをして、風呂場を出た。
パンイチで戻りたいけど、どうせまた颯希に“オッサン”って言われるんだろうなぁと思い、ジャージのハーフパンツを穿いておく。
Tシャツは…これくらいは許されるだろう。
髪が乾いてから着ようと手に持ってリビングに戻る。


持っていたTシャツをソファに投げかけると、冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを出して、一気にゴクゴクと口に入れる。
食道を通って胃に入っていく感覚がわかってすげー気持ちいい。

「そんな一気に飲んだらまたお腹壊すわよ」
「一気に飲んでもちょっとずつ飲んでも壊すもんは壊すよ」

母さんの忠告も聞かず、二口目を飲もうとした所でリビングの扉がキィと開く。

「あ!大ちゃんやっぱ起きてた!…って半裸!!ちょっとTシャツくらい着なさいよ!」
「は…はんら!?」

今日の審判者は姉ちゃんだったか。
NGと下されたジャッジメントの制裁を受けるかのように、ソファにかけていたTシャツを投げつけられる。


…あれ?

今の声……


ばさりと顔にかかったTシャツをどけると、視界に入ってきたのはリビングの扉から様子を伺うようにこちらを見ている…
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